巨大キツネ祭り in SSA

今年のBABYMETALはRed Hot Chili PeppersKornのサポートアクトを中心にアメリカ国内を巡業しており、アジアでも初の韓国でMetallicaのサポートアクト、国内でのライヴ展開も、1月にGuns N' Rosesのやはりサポートアクト、と、キャリアの長いベテランバンドと活動することに比重をおいていた年です。BABYMETAL一行にとって得られたものは、外野には測りかねますが、何しろ気軽に見に行けるライヴが少ない!

今年初のワンマンはLAであり、ようやく国内で各地のZeppなどで行った夏の「五大キツネ祭り」は、フラストレーションを抱えていたメイトたちが殺到し、チケットはいつにも増して厳しい当選率。フェスへの出演もSummer Sonic一本に絞るなど、昨年に比べれば、やはり相当少ない露出であったといえるでしょう。

 

そんな状況に業を煮やした株主が総会で物申した結果がどうか、昨日、一昨日とさいたまスーパーアリーナで約一年ぶりの大規模ワンマンを開催しました。平日とはいえ2日ともチケットは即完売。私も友人の厚意がなければ一日しか観られませんでした...

 

はい。とまあ、行ってきました。

 

この一年、ベビメタ以外のアイドルにも見聞を広めるべく、色々と手が届く範囲で見てきましたが、そのせいでこちらの見方が変わったところ、BABYMETALが変わったところと両方があり、どう落とし所をつけるのか迷う部分もあり、2日の時間をかけてライヴが観られるのは本当にありがたいことです。ごくごく単純に、お祭りとしてファンが集っているのも、昨年からの友人たちと再会できるのも楽しみのうちでしたから、一日終わって次の日もある、というの、本当に嬉しいものですよ。。

 

さて、今回は夏の「五大キツネ祭り」というZeppを中心としたライヴハウスでのツアーの延長で、以前SSAや横アリ、東京ドームでしたような巨大セットなどのギミックはほぼ無く、エンドステージの背景全面に設えられた高解像度のモニターや、アリーナクラスのライヴでは定番のレーザーを使った照明などがあるくらいで、演出もごく控えめの、パフォーマンスを前景に押し出したステージとなりました。セットリストも、おなじみの「BABYMETAL DEATH」スタートから1日目は「ド・キ・ド・キ☆モーニング」2日目は「ギミチョコ!!」、そこから「メギツネ」に入るというスピード感、また聞き慣れないSEに続くのは神バンドの新ソロ、から、間断なく「ヤバッ!」へ入るこの流れは、昨年のBABYMETALにはなかった手触りを残しました。セットリストと、少しの演出で、ここまで見え方が変わるのかと驚きです。
ことに神バンドソロからノータイムで「ヤバッ!」に入る切れ味は、かねてより私が求めていた変化の一つで、これが見られただけでも御の字。ポーズを構えながらせり上がってくる三人の姿に歓声を送る間もなく、曲に移行する。いやー、この時間の使い方は最高です。

 

そしてSU-METALの「アモーレ」ソロとなるわけですが、一年ぶりの大箱は、こちらが思っていた以上に準備を重ねたものであり、気合の入れようも違っていたのか、これがもう容赦なく感情を乗せたパフォーマンスでした。当たり前のように泣いた。私がどうしてもフェスのベビメタに行きそびれるのは、このソロが観られないからなのです。

SU-METALは、確かにエモーショナルなパフォーマンスをしますが、とはいえ、溢れ出る感情に溺れるのではなく、そのエモーショナルさには、自分自身に鞭を入れる凄みがあるのです。ライヴ中、今自分がどのようなコンディションにあり、どのようにすればより良くなれるのか、そのリアルタイムのフィードバックがパフォーマンスに反映されることにいて、彼女ほど生々しい人を、他にほとんど知りません。高く評価される歌唱力から想像されるような、安定と端正さは、彼女の凄さとは、ほぼ無関係ですらあると言いたい。即、自分を叩き直すその振る舞いがパフォーマンスであり、多くの人間との圧倒的な違いです。

ですが、ベビメタの活動が約7年を迎え、大舞台をいくつも踏んで20歳になるSU-METALにも、余裕の兆しが見えます。いつまでもがむしゃらで居続けることはできません。どこか、70%ほどの力でやっていくテクニックが備わってきたのではないかとも思えます。彼女に限らず、人前に立つ誰しもが、その"安定期"を通ることでしょう。自分のパフォーマンスが相対化され、テクニックによる再現性が増し、一方で新たな自分を獲得するための方策が見つからない...華々しく成長する過程に比べて甚だしく地味なこの時期が、SU-METALにも近づいているのでは、と。

この見立ては、無論主観的な印象に過ぎません。昨年のライヴでも、平坦な印象のライヴはありました。そもそも、余人には測りがたいパーソナリティを持つSU-METALは、活動を続ける限り、驚くべきパフォーマーであり続けるだろうと期待しているのは大前提です。しかし、いつまでも右肩上がりに"進化"があると考えるのもおかしな話です。むしろ、SUが来るべき地味な時代をどう過ごすのか、そちらに思い至らせられるライヴだったのです。
それに、そんなふうに見えてきたら、かえって一層、人間的な魅力も増したようにすら感じるのだから、まあなんというかですね...去年の圧倒とは全然別の形でやられています。厳然たる視線と振る舞いに加えて、柔和で気取らない側面もあって...

で、ちょっと全体の話に戻ると、前半でのスピード感のあるセットリストは、最後に至るまでタイトで、ストレートを愚直に繰り出すような感すらありましたが、2日間でほぼ変わらないセットリストが繰り返されたことで、その印象はより強くなりました。観客へのサービスというより、今BABYMETALが何をできて、今後何をすべきなのかを試すように、明確な意識をもってパフォーマンスが作られている、作り手の実直さが伺えます。平たく言えば、SU-METALにもBABYMETALチームにも、惚れ直したというやつです。いや、久々に見たらどう感じてしまうのだろう...という妙な心配があったのです。だから、とにかく最高のBABYMETALだった、とはならなかったものの、このグループを観ている充実の度合いが変わったライヴなのでした。

 

...話は変わって、先ほども少し触れましたけれど、開演前にも別のアイドルグループについて話している時間が何度もあり、いやあベビメタの前にこっち見たくなってきちゃったね、などと。皆、ベビメタが見られない時間で勉強(?)に余念がないのです。


そのなかで、パフォーマンスの凄さをベビメタと比してもなんら遜色なく、むしろその違いを検討していくことで、日本のアイドルシーンの豊かさが見えてくるグループについての話題で盛り上がりました。そのグループは、SSAはおろか、Zeppですら集客に難があるでしょうが、そんなことはパフォーマンスの質には少しも関係しません。今年出くわした驚きとステージの感動で言えば、彼女たちのそれを上回る出来事は、残り二ヶ月で起こり得ないと断言できます。ただ、起こっていることに何という言葉を与えればよいものか。音楽性の多様さ、パフォーマンスの異質性、キャラクターのバラエティ、フロアの猥雑さ、すべてが絡まり合って形をなしている現象に、この数ヶ月戸惑い通しです。(ベビメタが楽しめるか不安だったのは、もう明らかにここのせいです)

これはBABYMETALのエントリなので、引っ張ってもしょうがないですね。もし知らなければ、There There Theresという名前だけ、覚えてください。夕暮れのSSAの入口の前で、このグループについて語り合ったことは、BABYMETALからアイドルシーンに導き入れられた私にとって一際記憶に残る時間でした。ベビメタも世界を変えるが、その変わった世界は、まだまだ何度も変わる余地がある。いやはや、面白くてたまらんですね。

 

 

では、続いて来月の予定をどうぞ。