20190323 3776さん、とんでもない

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とんでもない。

昨年の『「3776を聴かない理由があるとすれば」再現ワンマン・ライブ』の異様な緊張感のあと、何を見せてくれるのかと思ったら、いや、とんでもない。

 

ダイナミクスへの誘い」と題された今回のワンマンは、3部形式を取り、それぞれに井出さんのナレーションが梗概を説明するところから始まる。(このときBGMとして井出さんがスキャットで歌うクラシック曲たちが、また最高)
ダイナミクスへの誘い」。それは音の強弱であり、音の強弱とは、音量であり、音量とは、"環境に対して適切な音量"のことであると。それに従って、それぞれ1部が昨夏の全国行脚によって生まれたミニマムな機材環境でのパフォーマンスの再現、2部にライヴハウスが出せる最小音量から最大音量への漸進、3部は凶暴に持ち上げた低音や、リアルタイムの演奏かと聞き違うばかりのギターの生々しさなどによって彩りを変えた楽曲群のパフォーマンスとなる。どれもが聞き馴染みのある曲であるにもかかわらず、今までと全く違う聞き味になっている。またそれが「珍しいパフォーマンススタイル/曲をワンマンの機会に演じてみせる"ファンサービス"」としても両立する異様な筋の通し方なのである。

 

3776は「再現ワンマン・ライブ」のときと同様、自分自身の論理に内在しながら、3776が3776のまま、全く別の3776に化けてしまう。3776(=富士山の標高)にとっての富士山が、視点の変化によって伸び縮みしたり、高みから振り返れば海を臨ませる展望台であったり、静岡と山梨という2つの極を生み出す中心であったり、歴史であったり未来であったりするように、3776は3776を参照しつつ別の相を露わにしてフレッシュネスを更新してしまう。井出さんによる教えを活かすなら、富士山や我々のように3776もまた"若い"。さらに今回のライヴで、極小の音量と爆音の往還によって"イメチェン"した楽曲群は"ナチュラルメイク"ではない、3776の大胆な装いの可能性を開いてしまった。次のワンマンを期待せずに、何を期待するのか。8月の渋谷、絶対に行きたい...

 

だけどOA/アンコールの「井出ちよの」にも本当は触れなければならないし、実は昨年のワンマンについても、ずっと向き合って考えなければならないと思いつつ今回のワンマンが来てしまい、いやでも、残念ながら今回もまた中途半端にならざるを得ないのです。時間がない!いや、本当は手に余る!

 

3776さんの凄さを十全に考えるには、はっきり言って私の能力なんかでは手に負えないし、しかるべき方に出会っていただきたいと思うばかりなのです。個人的には、あの素晴らしい『ミッキーはなぜ口笛を吹くのか』や『うたのしくみ』『介護するからだ』を書いた細馬宏通さんのようなひとに、3776さんを見てほしい。