2020年のまとめ 観たもの聴いたもの編

毎年、その年に良かったものをずらずらっと並べるのが楽しみだったのですが、どうも今年はいまいち興が乗らず。趣向を変えて、各ジャンルひとつのものだけにしぼってから、話してみようかなと。そうしよう。

 

音楽

 

Twice 「Eyes wide open」

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※1/3注を追記
今年はいよいよK-POPカルチャーを見ていくぞという条件が揃ったかなあという年にもなりました。BTS,NCT,ITZY,BLACKPINK,MAMAMOO,LOONA,aespa,Weki Meki......既知のグループも未知のグループも、次々に好みの音楽に行き当たりだしたのを最も大きい要素としつつ、リリスクのminanさんのバースデーライブでK-POPから「Feel Special」「Any song」「Dynamite」をバンドセットで聴けたのも現場の多幸感と相まって後押し、その流れでチェックしたTwiceの新譜が、かつてのキラキラしたポップさとは別のイメージで上書きされたのが決定打でした*1
貼付けた「I CAN'T STOP ME」の、いささか懐古趣味もあるサウンドも趣味ですが、「BRING IT BACK」のように大胆で、トレンドも抑えつつ、かつそうした目配せにとどまらない"K-POP"固有の手触りをおもわせるに充分な楽曲群が、ピアノバラードという個人的な鬼門をクリアした上で13曲も連続する幸福。聴き始めたのこそ今月ですが、今年のベストアルバムといっていいほどリピートしています。
ちなみに、これを聴くまではITZYの2枚のミニアルバムがベストで、グループダンスの精確さに関心の薄い私ですら目を引く精度と、一転して、まるで日本のアイドルのようにくだけた企画–––ポジションチェンジや衣装チェンジによるダンスプラクティス動画–––のグダグダ感も身近で、K-POPにおける"推しグループ"の様相です。

 

こうして楽曲/パフォーマンスから離れた側面にコミットできるようになると、いよいよという構えができてきます。しかし、現場はもちろん、しっかりコミュニティに属してないと見落とす様々が多すぎて何もわからないまま、修行時代は続きます。
K-POPとはなんなのか、というそれ自体外野だからこそ口にできてしまう目の粗い疑問は、たとえばブルピンのNETFLIXドキュメンタリー『Light Up The Sky』などを見ていても、違和感に重なって浮かび上がります。
K-POPは(日本のアイドル文化に深くコミットしている立場からすると特に)、どうしても優れた部分だけがピックアップされて語られがちにみえます。ゴシップめいた話題は論外としても、ひたすらハードなトレーニングを誰でもないものとして数年間続けた先に、ひとたびデビューすれば突如として世界中が自分たちを大スターとして認識してしまうこの光景には、かつては『ローマの休日』によって瞬く間に大スターになってしまった「オードリー・ヘップバーン」を生んだ時のような、むしろ"古さ"の回帰を見てしまいますし、ありていに言って恐ろしさに似たものも感じました。またそもそも、技巧の修練を徹底するその方法論が手放しで褒めそやされるような価値観へのコミットも、いったん距離をとりたいと思います。

これらは単純な批判ではなく、私自身の知識不足から判断留保しつつも、今後K-POPを見ていくときの寄す処となるような感覚の問題です。いつか、単なる勘違いだったなとすべてひっくり返しうる。文化とは、マクロに見てもミクロに見ても一面的にはなりえず、その多様さの混合体の縫い目を辿っていくことにしか、確かさは現れません。そのとき、やはり様々な言葉が必要になってくるでしょう。
だが、身を切って文化に関わっていない人間の「ひとまず」の理解は、さしあたって自分には必要ありません。同時に、首までズブズブに浸りきった人間の言葉だけがリアルなのかといえば、それもどうでしょう。

 

というとき、この大和田俊之さんの連載は非常に助けになりました。BTSアメリカで成功したことに生じている歴史性を、政治的/文化的要素を取りこぼすことなく描き出しています。

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どのくらい関心が続くのかちょっと分からないけれど、この年末年始は特にK-POPまわりを見てみようかなーというところでした。

 

映画

 

もう「映画を観ている」とは言えないほど低調が続いていますが、わすれがたい映画に出くわしてしまいました。



エリア・スレイマン『時の彼方へ』

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10年越しに見ることができたスレイマンの映画は、オールタイム・フェイヴァリット級の作品でした。『D.I』もお気に入りの作品だっただけに、期待は随分高まっていたというのに、そんなハードルなどやすやす越えて、このまま映画が終わらないでほしいと思ったほどです。言葉少なな役者たちとは裏腹に、画面は運動にあふれて止みません。
予告編中にも映っている花火のシーンの美しさたるや、映画史に登録されてしかるべきものでしょう。ラストシーン、スレイマン本人の主観ショットとして繰り広げられる眼前に往来する人間たちの姿も、忘れ得ないものです。
パレスチナ出身の監督が父の半生を描くことで逃れがたい、彼の地の政治的な諸問題について、ほとんど何も知らない恥を忍びつつも、まず「映画」として酔ってしまう。


新作『天国にちがいない』も素晴らしく、年明けにはようやく全国で劇場公開もされます。大掛かりな無人のパリでのロケシーンと対照的な小鳥とのダンス(?)シーンは必見と言えます。

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ここは思ったより言葉が続かないけども、映画はいまだに最も好きな自覚のあるジャンルです。しかるべきタイミングでまた向き合うだろうし、だけど、もしかしたらそういう時期はなかなか来ないのかもしれない。

 

 

近藤聡乃『A子さんの恋人』

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もっぱらこちらの頭の問題で、大変なので通読しないけどおもしろい、みたいな本と、通読したけど全部忘れた、みたいな本が山程あります。

 

そんななかで、唯一買っていた漫画『A子さんの恋人』が無事完結(いまの自宅に漫画は、この作品と『わたしは真悟』『放浪息子』くらいしかない。それらに並ぶくらい好きだということ)。さすがに5年の付き合いとなれば忘れがたく、印象も未だ鮮やかです。完璧な結末には落涙。。
一筋縄ではないタイトルであることをいちいち感じさせるストーリーは、美しく簡潔的確な線描に縁取られたキャラクターのドライな意地悪さと生々しい煩悶によって、快くもそればかりではない緊張感を保ち続けます。人に恋し、愛そうとするさまは滑稽で、その出来事の表面をスケートのようにして軽やかに滑っていくだけでも、それはそれで清々しい小品として私は好きだったはずですが、厚い氷を突き崩して、取り返しがつかないことを引き受ける切実さに迫った作品でした。あまり好まない言い回しですが、誠実さが支える表現の強度に、あらためて驚かされます。いや、ひどく抽象的な言い方をしてるのは、めずらしく「ネタバレ」を避けているからです。いわゆるショッキングなラスト、というわけではないけど、頭からもういちど読み返さずA太郎のことを書いてやれる気がしない笑ということでもあります。
A子さん、そしてその「恋人」であるA太郎と呼ばれる登場人物が、どのようにしてラストをむかえるのか、あるいはどのように作品を支えていたかを、ぜひ読んでいただきたいです。

 

恋愛を主題にしたコメディで、同じような切実さから逃げなかった作品として、古沢良太脚本の『デート』も思い出していました。

 

ライブ

 

BABYMETAL 「LEGEND - METAL GALAXY」幕張メッセ

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書くのもむなしいような1年に思えるけれど、いやいや1月のベビメタは、5年間のベビメタ経験のなかでも指折り3本に入るものです。YUIMETAL不在のダークサイド期から、YUIMETALの正式な脱退発表という谷を越え、横アリでは元モーニング娘。鞘師里保が非公式に加入する驚きと新曲の連打(私がはじめてベビメタを見たのがこの横アリで、さらに同じように1曲目が新曲という、回帰ぶり)、なにより笑顔のSU-
METALという大歓喜のライブすら上回って、幕張のライブは素晴らしかった。

新作から未パフォーマンスの楽曲をやるのは、まあ予想通りとはいえ、やはり大大大歓喜。忘れられないのは、なんといってもラストの、2017年末、広島でやはりYUIMETAL不在で行われた以来の「イジメ、ダメ、ゼッタイ」が、5人+東西の神バンド全員集合という蒲田行進曲のラストかというような大盤振る舞いの姿でパフォーマンスされたこと。ピアノイントロが流れ出した場内のざわめき、そして千々に乱れた興奮がまとまりなくそちこちで歓声や跳躍に還元される「現場」の熱。2014年来、毎年海外遠征に行ってゆうに通算100回はベビメタを見ている友人ですら、この日の特別さを話していたものです。

また、そうした興奮を支えていたのは、フルフラットでけっしてライブ向きではない幕張メッセのどこからでもステージを視認できる、なんていうものではない、背面すべてを覆う超巨大高解像度パネルと、その映像演出に触れないわけにはいきません。直後のEUツアーでもついにバックドロップを排してまで携行された高解像度パネルは、ベビメタのライブがいよいよ映像と分かちがたく、また能動的かつ積極的に映像/身体の共存を目指しはじめたことを示唆していました。

ことに、「Distortion」での、SU-METALの睥睨するような視線と観客を煽動する指先(かきまぜるようにして、フロアにサークルピットを生成する)がスローモーションのなかでディゾルヴする場面など、ほとんどリーフェンシュタールの映画のように危うげな強度まで感じるほどでした。

ベビメタのステージ上の身体は、多くの場合、会場の広さから直接視認することが難しい。我々観客は、BDや動画を介し、ベビメタの映像的身体を見ています。これが、リアルタイムで、ステージと並走的に発生していること。ベビメタのライブにあって映像は補助的な要素ではなく、まるごとライブ経験を担うファクターになりつつありました。このことを考えたくあるし、本当であれば1年かけて様々なライブで展開される部分であったと想像します。

 

映像と身体のテーマは、配信活況の状況で期せずして豊富に考えることになりました。なぜある配信がつまらなく、またある配信が面白いのか。映像/編集によって再編される身体/ライブのありかたには、望むと望まざるとに関わらず、来年もまた多く向き合わざるを得ないでしょう。 

 

おわりに

 

ということで、大まかには、いまだにアイドルを中心に関心がめぐっている1年には変わりなかったようです。

他にもビデオゲームをはじめて、触発されることがかなりあり、そういった話もなくはないけど、「アメリカン・ダンスアイドル」以降すっかり飽きてしまったオーディション形式の番組(なのでラストアイドルは一瞬も見たことがない)であるところの「虹プロ」をこの年末年始でぼちぼち見てみようということにしたので、残念、時間がありません。

 
言いたいことはだいたい言い終わりました。
それでは、よいお年を。

*1:もう一度あらためて過去の楽曲も聴かなきゃなあと『Twicetagram』に『TWICEcoaster LANE:1』『LANE:2』とさかのぼったらば、いやー全然いい。スルーしてたのは、こちらのタイミングが整ってなかったということに尽きます。もしくは、MVのきらびやかさが聴取を鈍らせてたところはあるかもしれない。