NILKLY配信を見てのメモ

youtu.be

 AqbiRec所属のアイドルグループ「NILKLY」が結成一周年を記念した生配信を行いました。見たのはダンスパフォーマンスパートだけですが、ひさしぶりにアイドルの"ライヴ"の力強さに、素朴に感激しました。。

 

ところでこの配信、衣装ではなくレッスン着のようにラフな服装でパフォーマンスされているんですけど、衣装ではないからこそダンスの線がはっきりする部分もあって、それも興味深かったのです。以前、コンテンポラリーダンサーの勅使川原三郎さんも「練習風景」と題した動画で、ジャージ姿で踊っているのがかえって生々しく、妙に印象深くもあり。

 

www.youtube.com

  

しかしそれより思い出すのはやはり、「ダンス・プラクティス」動画でしょう。普段カット割で映らない振付の全容が見られる機会として、またファンにとってはオフショット的のリラックス(してるにも関わらずキレキレだったりすることで技巧に惚れ直すなど)してる様子もたのしめる企画です。

 

www.youtube.comやはり三浦大知さん、すごいっすね。

 

 

で、NILKLYの配信ではさらに具体的に連想したものがあって、それがこちら。

www.youtube.com

 

K-POPアーティスト「BLACKPINK」のダンス・プラクティス動画*1 です。うえの三浦さんの動画と違い、かつNILKLYと同様なのは、カメラが動くこと。タイトルにも"Moving"とあります。その動きは大胆な前進・後退をベースにしたカメラワーク。このカメラワークは、ほぼパフォーマンスの構造とは無関係に、カメラの動きだけ際立たせて、ともすれば単調になる1台のカメラによるフレームを揺らし続けて生々しさを失わないように務めているかのようです。

 

しかし自律的なカメラの動きは、カメラを操作するオペレーターに意識が向かざるを得ませんから、一見すると目障りに見えるときもあります。NILKLYの配信も、最初は少しカメラの動きが気になっていたのですが、気づくとカメラの動きを忘れてしまっているときがある。こうした没入感の高まりをふしぎに思いましたが、さきのBLACKPINKの動画と比べれば、すこしその理由がわかった気もします。

  

BLACKPINKのダンスプラクティス動画*2では、カメラはほとんどクロースアップを選びません。なぜならこの動画ではメンバーの振り、あるいはプロポーションこそがもっとも見せるべき対象であるからでしょう。とはいえ、固定のカメラだけでは味気なくもある。こう考えると、前進・後退するカメラの動きは、映すべき対象を捉えつつも、あくまでも画面を退屈なものにさせないためにある戦略であるといえます。



いっぽう、NILKLYの動画では時に振りやプロポーションの視認性を犠牲にしたクロースアップがしばしば訪れます。ごく単純に比較した結果から得られものを確認するなら、前者で優先されたものが犠牲にされることで、われわれが「アイドルのライヴで見ているもの」が浮かび上がります。それは小規模なライヴハウスの視界のシミュレートであり、かつ、われわれがアイドルの表情を重視している、という当たり前ではあるものの、なかなか映像で再構成しづらい要素です。


またクロースアップは、あらかじめ与えられている前進・後退のリズムのうちで半ば偶然的に発生する(かのようにみえる)のも見逃せません。こうしたリズムの存在によって、カメラがその表情へと寄り切ってわかりやすい意味へと落ち着かせようとするまえに、スッとそこから離れてしまう。常に微妙な距離が担保され、カメラは必ずしも、アイドルの表情がもたらすエモーショナルな見せ場に同期しきるわけではありません。しかし逆説的に言えば、この距離の押し引きがあるからこそ、視聴者はアイドルの表情との出会いを果たすのではないでしょうか。
今回の配信で使われた「ダンス・プラクティス」ふうのカメラワークは、単調さの回避以上に、機械的な反復運動によってメンバーのパフォーマンスを、より積極的に生々しく捉えることに成功している例でしょう。つまるところ、配信がライヴの次善手段ではなく、じゅうぶんにパフォーマンスの快楽を得られる手段として成立しているようにも思います。

 

 

と、だいたいこんなようなことを考えてましたら、ディレクターの田中さんが配信についてコメントしている動画が配信されました。現場至上主義に疑義を呈しています。「気持ちが乗っかる」という言い方で、映像も現場もそれぞれに変わりない面白みがある、という話です。

youtu.be

 

 

ごく個人的な話で結ぶと、映画が好きということもあるし、そもそもごく初期のジャグリング体験のほとんどが映像であったこともあり、生の現場だけがほんとうに素晴らしいのだ、とは思いきれないのが、この状況でまた浮かび上がってきています。パフォーマンスの経験にだけ限って言えば単に別なメディア、というだけです。映像ではわからないこともあれば、生ではわからないこともある。そういうだけでは面白くともなんともないので、いまは生ではわからないことを積極的に楽しみたいなあ、と、そんな具合でひとまず締め。

*1:とくにK-POPでよく見られるコンテンツです。K-POPファンの方のブログによれば、これが広まっているのは偶然の産物であるよう。https://ameblo.jp/kpopknowledge101/entry-12455993366.html

*2:とはいえ、今回改めて調べると、ほんとうにいろいろな形の映像があることがわかりました。単純にライヴ感を与えるだけではないさまざまなデザインの志向性が伺えます。簡単にリストにまとめたので、よければ。https://www.youtube.com/playlist?list=PLz4921MXpetCKs2LoNeLezgJOewZEisL7